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「ああ。最初の頃はあんたを、〝俺の境遇に憐憫の気持ちを抱いて付き添いを買って出た、本当は良い人〟なのかも……、なんて思っていた自分が愚かしいよ。あんた、結局のところ付き添いのバイトという名目で楽して金を稼ごうって腹なんだろう?」
ここ最近の考えを吐露してしまった俺に、イマトオは読んでいた漫画本からやっと目を離して、僕に言った。
「あははは。バカにしないでほしいなぁ。ボクはお金になんかに興味はないよ。筋金入りの浮浪者だからねぇ。男子と長期間一緒にいる、なんてことをしてまで欲しい金なんかないさ」
「なに、しょうもないことをさもカッコ良さげに言ってんだ! ってか、じゃあなんであんたは俺の付き添いなんてしてんだよ?」
「ここに居れば美人の看護師さんを眺められるからねぇ」
「しょーもない理由だな! その割にはあんた、どの看護師さんにも全然話し掛けないじゃないか!」
「あははは。ボクは小心者でねぇ。綺麗な女性に話し掛ける勇気なんて持ち合わせていないんだよ」
「だから、変に開き直ってんじゃねーよ!」
そう僕が言った時、イマトオが目線を病室の入り口に向けた。そこには、僕に対してなぜか余所余所しかった他の看護師さんとは違い、普段から割と気さくに僕に話しかけてきてくれていた、尼崎さんというキレイ系の女性の看護師さんが、心配そうな顔をして立っていた。
「あ、どーもです」
僕がそれに気付いて挨拶をすると、彼女はおずおずとした口調で言った。
「……あ、あのね。前から気になっていたんだけど、武人君、いつも誰かと話してるみたいだけど、いったい誰と話しているの?」
「え?」
この人は何を言っているんだろう?と、不思議に思う。そんなものは見れば分るだろうという話だ。
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