武人の疑問

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「も、もし、よかったらだけど、精神科の先生のカウンセリング受けてみない? 私もできるだけ力になるし……」  なんて続ける尼崎さんの言葉に戸惑っている僕に、イマトオがしれっと言った。 「ああ、言い忘れていたんだけど、ボクは幽霊みたいなもので実体が無いんだ。だから普通の人には僕の姿は見ることができないんだよねぇ……」 「それを今になって言うのかよ!」  ついついキツい口調でツッコミを入れてしまった僕の言葉を、尼崎さんは当然のように自分に向けられたのだと勘違いしてしまい。 「ご、ごめんなさいね。差し出がましかったよね」 「あ、そ、そうじゃなくて、えーと……」  と、僕が弁解する言葉に迷っている間に、彼女は気まずそうに謝罪の言葉を残して、その場を去って行ってしまうのだった。  何もできずにそれを見送った僕は、なるほど――と、その時になってようやく全てが理解できた。  今までイマトオが口先だけで何もしなかった理由――。  そりゃあ、実体が無いんだから何もできないし、看護師さんに話し掛けることもできないだろう。  というか、そういう事になると、そいつが霊体だという話すら怪しくなってくる。  もしかしたらこいつは、孤独な僕の心が作り出した幻覚だという可能性すらあるじゃないか。  というか、どう考えてもその可能性の方が高い。多分そいつがくつろいでいるソファーも込みで、僕の見ている幻覚なのかもしれない。  だとしたら、なにが悲しくて僕は可愛い女性ではなく、そんなおっさんの幻覚を作り出したのだろうか? それも併せて考えると自分の人格をさらに疑いたくなるのだった……。
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