武人、誘拐される

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 亜空間とやらを抜け、たどり着いたそこは古びた小さな神社だった。 「さ、付いてきて。中で、その人が待っているはずだから」  そう言って僕を案内する髪永さんの肩にはブラジャーが掛けられていた。  そのせいか、僕はその女性に促されるままに付いて行った。『っていうか、どこまで付いていけば、それをもらえるのだろう……?』と思ってしまっている僕だった。 「その人……というか、その神様と僕とはいったいどんな間柄なんでしょう?」 「さあ? 私は頼まれただけだから、それは中の人に聞いてちょうだい」  彼女がそう言って戸を開けると、小さな外観とはまるで違う、ちょっとした学校の体育館のような広さの部屋の中には……。  誰も居なかった。  足元に置き手紙があって、『ちょっと用事があって天上界に行っておるので、目的を果したら部屋の中心にある魔法陣で呼び出すがよい。byアリア』と、筆書きで書いてあった。  見るとその、必要以上にだだっ広く感じる部屋の畳張りの床の中央に、相撲の土俵くらいの大きさの洋風な魔法陣が書いてあった。 「居ないみたいね。武人君、その人が来るまでお茶でも飲んで待つ?」  髪永さんは、そう言って部屋の隅にあったちゃぶ台に向かい、そこに座布団を敷いて僕に勧めると、ちゃぶ台の上にあった急須や保温ポットを使ってお茶を用意し始めた。 「いえ……。ってか、置き手紙に『部屋の中心にある魔法陣で呼び出すがよい』って、書いてありますけど?」  しょうがなしに勧められた座布団に座りながら、僕はそう訊いた。彼女は、湯飲みにお茶を注ぎながら、明らかな作り笑顔で僕に言った。 「ここって、外見とは違って中は広いでしょう? 実は、亜空間を通じて違う場所に繋がっているのよ。凄いでしょ?」 「いえ、そんなことは聞いていませんが……」 「っていうか、その人が来るまでここで私と一緒に暮らさない?」  髪永さんが話題を逸らそうとしているのは明白だったが、そんな提案までしてきた。
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