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なぜか僕の口は、まるで口癖だったかのように勝手にブラジャーを要求していた。その予想外の言葉に、自分で慌ててしまう。
というか、記憶を失くしてるのにそんな言葉が自然に口から発せられるほど、記憶を失くす以前の僕はそんな主張を繰り返していたのか!? だとすると、僕って一体どんな人間だったんだよ?
そんな僕を、冷たい目で見ながら髪永さんが言う。
「まあ、他人の物だし、私としてはあげちゃってもいいんだけど、その人から言われてるのよ、『このブラジャーは事が済むまで絶対に渡してはいけない。渡したら帰っちゃうから』って」
「僕はそんな人間だったんですか!? ということは、そのブラはあなたの物ではないと?」
「そうよ。あなたの知り合いからの預かりもの」
それは残念な答えだった。って、僕はなんで残念がっているのだろう? なんていう疑問を抱いていると、
「だったら、あなたの今付けてる方のブラジャーをください。って、また!?」
再び僕の口が勝手に動いて余計な要求をするのだった。
いったい僕の頭の中はどうなってるんだろう?
そんな疑問に悩む僕に対する髪永さんの目がさらに冷たくなっていた。
「……わかったわよ。魔法陣、作動させるわよ。後悔しても知らないからね」
「って、さっきまであんなに嫌がってたのに、そんなにあっさりと!? どれだけ僕にブラジャーを差し出したくないんですか!?」
「当たり前でしょ! なに? その、『要求を通すにはブラジャーを相手に渡すのが当たり前!』みたいな価値観!」
「ええ!? もしかして僕が間違ってるの!?」
と、反射的に聞き返してしまったが、落ち着いて理性的に考えると相手の言い分はもっともだと思えた。だけど、なぜか感情面では納得できてはいなかった……。
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