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「やあ、おはよう。武人(たけひと)クン」
そう呼びかけられた僕は、ぼんやりとした意識のまま、その声がした方向に目を向けると、ニヤケ顔をした見覚えの無い男がソファーに背をもたれ、寛いだ様子で僕を見ていた。
「――は…?」
僕は、その状況が分からなかった。
とりあえず状況を確認する。
どうやら僕は、ベッドに横になっているらしい。
だが、それ以外はなにも分からないので、とにかく体を起こそうとしてみた。
――途端。
「――ぐおっ!?」
胸のあたりに激痛が走り、僕はその痛みに悶絶する。
だけど、その痛みの原因にも心当たりは無かった。
とりあえず記憶を辿ろうとするが、何から思い出せばいいのかも解らない。
というか、自分の名前すら思い出せない。記憶を辿ろうにも、その切っ掛けすら思い付かない……。
「えーと、その武人というのは僕の名前なのかな?」
僕はその確認を優先した。とりあえず胸の痛みの原因よりも先に確認したい物事だった……というよりは、そっちの方が思い出す可能性がありそうな気がしたからだ。とにかく、まず最初に思い出すべきことが何も見つからないではスタート地点にすら立てない。
「そうだよ。キミの名前は大本武人(おおもと たけひと)、17歳で高校二年生の男子だ」
ニヤケた男が、当たり前のようにそう答えた。
「ふーん……。そうなんだ」
その苗字にも心当たりがない。というか、なぜかしっくりこないという印象だ。
とはいえ、自分で聞いておいてなんだが、それも、どうでもいいことのように思えた。
ただ、僕の中の理性的な部分で『普通なら自分の名前くらいは知っておいた方がいい』とも感じたので、いちおう覚えておくことにしようとは思う。
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