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「おや? 自分の名前が気に入らなかったかな?」
そんな僕の思考が表に出てしまったのか、そんな質問を返されてしまうが、それを誤魔化そうという気にもなれなかったので、素直に答えることにした。
「気に入らないもなにも、それが僕の名前なんだろ?」
「まあ、そうだよね。たとえ記憶に無くてしっくりこなくても、それが今のキミの名前だ。イヤなら改名でもするしかないね」
「別に、名前なんてどうでもいいし………って、なんで僕は自分の名前を覚えていないんだ?」
「さあ? 記憶喪失なんじゃない?」
「それは言われなくても自分で気付いてるよ! だから、この状態になったその理由が知りたいんだ!」
気の無い答えに、僕はキレ気味にそう言ったのだが、相手はそれを意にも介していないように答える。
「交通事故で意識不明の重体になって、数週間後にやっと目覚めた時ってのは、誰でも大概そんなもんだろうから、気にすることはないよ。」
「むちゃくちゃ気になるわ!! 交通事故!? 意識不明!?」
慌てる僕に男は、面倒くさそうに説明を続けた。
「うんそうだよ。ここは病院の中さ」
「つまり、ここは病室なんだろ? なんでソファーが置いてあるんだ?」
「それは、ボクが持ってきたからだろうねぇ」
「私物かよ! って……自分で持ってきたのか? ソファーを!?」
「別に、個室の病室に私物を持ち込んだって構わないだろ?」
「そりゃそうだけど、そんな三人掛けのソファーをどうやって……って、それよりもっと重要な疑問があった! 僕はいったい……。えーと……、何から訊けばいいんだ!?」
「まずは、ボクがこのソファーをここに運び入れるのに、どれだけ苦労したのかって話をしたいんだけどねぇ?」
「って、んなことはどうでもいいわ! それより、自分の容体の方が気になる!」
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