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それから、問診やいろいろな検査を受けることになった僕は、その合間にイマトオと二人きりになった時を見計らって尋ねた。
「なんで先にいろいろな個人情報を僕に教えたんだ? おかげで僕が記憶喪失だってことを信じてもらえなかったじゃないか!」
「あはははは。なんというか、単なる成り行き? なんだか、その方が面白そうかなーと思ってね」
「だから、なんでだよ?」
「ボクのやることに意味を求めるのは間違いだよ。いつだって、その場のノリで行動しているんだからさ」
「開き直りだなぁ!」
「まあ、本当のことを言うとね。ここの精神科医とか脳外科医ってムサいおっさんばかりなんだよねぇ。そんなのと関わり合うのはイヤじゃない?」
「いやいや、そんなしょうもない理由で僕の診断を勝手に妨害するなよ!」
「じゃあ、記憶のこと正直に話して、ムサいおっさんの診療とかカウンセリングを延々と受けるかい?」
そう聞かれると、「それはそれでうんざりしそうな展開だな……」と、嫌な気分になった。記憶喪失なので分からなかったが、どうやら僕は人と会話したり関わったりするのが嫌いなタイプのようだ。自分の性格をそう分析しているとイマトオが続けた。
「せっかく意識を取り戻したんだから、余計な診察が追加されて入院が長引くより、少しでも早く退院して家に帰りたいでしょ?」
その言葉で、僕の心は決まってしまっていた。
どうやら僕はそいつの言う通り、一刻も早く家に帰りたいらしい。
とりあえずその欲求に従うことにして、僕は自分の記憶喪失を隠し通すことを決断した。
というのも大げさな話しで、まあ時間が経てば自然に思い出すだろうという、そんな軽い気持ちだった。
とはいえ、なぜにこうまで家に帰りたいという衝動が僕にあるのか? ということは知りたいと思ったので、ダメ元で訊いてみることにする。
「なぜ僕はこんなに家に帰りたがっているんだろう?」
「それはキミが事故に遭う前まで、登校拒否で引きこもりのニート状態だったからだろうねぇ」
うーん、また知らない方がいい情報を知ってしまった……。
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