武人の疑問

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「どういうこともなにも、記憶を無くす前のキミはそういう孤立した人間だったってことだろ?」  イマトオというニヤケた顔のオッサンは、自分で持ち込んだというソファーで寛ぎながら、僕の心からの叫びなどは意に介さずに、バッサリと切り捨てるようにそう答える。 「ストレートだな! もっとオブラートに包んだ物言いってものがあるだろ!」 「だから、ボクは男子に対しては慈悲の心なんて無いんだってば」 「開き直るな!」  そのイマトオの台詞は、入院生活の中で再三再四聞かされた言葉だったが、今さらながらに腹が立つ。  その〝自称付き添い〟のおっさんは今までの間、僕に対して何ひとつやってくれなかったからだ。何を頼んでも「そのナースコールのボタンを押したら看護師さんが来るから、その人に頼めば?」と、僕が貸し与えられた漫画本を勝手に読み、ニヤケた顔で漫画のページから目を放しもせずにそう返すだけだったのだ。  そのことについて文句を言うと必ず今のセリフ「だから、ボクは男子に対しては慈悲の心なんて無いんだってば」という言葉で返されるだけなのだ。せめて、その度に違う言葉で答えるくらいの努力はしてくれと言いたかったが、どうせ言っても無駄だっただろう。
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