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眠り姫の伝説
スーパー買ってきたものを渡したとき、母は特に何も言わなかったが、玄関に靴があったので、確率は高いとみて、俺は身構えつつ自室の戸を開いた。
カーテンを閉じられた薄暗い室内は、一見何もいないように見えるが、廊下からの光だけでもベッドに違和感のある膨らみが確認できる。
カーテンを開けると、その膨らみから腕が生え「うーん」などと、やや不快そうな呻きをあげ、もぞもぞと蠢いた。
俺は荷物を下ろして、ベッドに近寄ってその生物の状態を確かめる。
乱れたショートヘアの少女が、顔だけを出して布団に包まって眠っていた。天井から照射される光に対して、まるで太陽を嫌うタイプの怪物のような拒絶反応を見せ、ごろりと顔を伏せて運命に抗おうとする。
「いや、起きろよ」
言って、ようやく彼女は光を受け入れた。
しかめっ面の地縛霊のようになっているが、乱れている髪を手でかき分けるようにして揃え、眩し気に細められていた目が開かれていくと、俺のよく知る幼馴染の顔になる。沙月(さつき)というのがその幼馴染の名だ。
「休みの昼間っから、人の部屋で何やってんだ」
「寝てました」
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