0人が本棚に入れています
本棚に追加
「キミにはこれがみえる?」
それが彼女との出会いだった。
蒼く高い空から鈴の音のような雪が舞う、そんな早朝の公園。
首から提げたカメラを構え、
吐く息に僅かに眼鏡を曇らせながら小さく笑う。
「キミにはこれがみえる?」
「…これ?」
主語が大きい。
“これ”を指すものが一体何なのかと、カメラの向けられた方へと視線を移す。
視界に均等に植えられた木と手入れされた花壇、その端に砂場を捉えるしかない。
「これ、みえない?」
眉を下げ残念そうにもう一度問う。
その声音に『みえる』と答えそうになり、
一呼吸置いて逆に微笑んでみせた。
「君はみえてるの?
それともファインダー越しでしかみえないもの?」
問いかけに下唇を柔らかく摘み、
目線を下へ、そして上、正面へ。
「…ファインダー越し」
小さく答える。
カメラはまだその方向へ向けられたまま。
だからもう一度そちらへ視線をやる。
「そっか…
でも、そっとして
溶けて消えてしまうまで」
植えられた木と手入れされた花壇、その端に砂場。
彼女はカメラをこちらに向け、
シャッターを切る音が蒼く高い空へ響く。
「だから、残したいと思った」
鈴の音のように舞う雪。
シャランシャランとその一瞬を、
触れる大地に溶けてしまうまで踊る雪の華を。
これが彼女との出会いだった。
最初のコメントを投稿しよう!