考え過ぎる葦

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 見知らぬ男が、ベッドの脇で血まみれになって倒れていた。  鋭く息を呑む。人は本当に驚いた時には、声も出せないのだと知った。脳髄が痺れるようだ。あまりの驚愕と混乱で、私は身じろぎもできない。  心臓は縮み上がり、次の瞬間には手に負えない程暴れ出した。私は息を切らしながら、やっとの思いで身を乗り出して手を伸ばす。目の前に横たわるものが信じられなかったから。  きっと指が男の首に触れた瞬間に、私はベッドの上で跳び起きるだろう。祈るようにそう思った。全てが夢であってほしかった。悪夢でも大歓迎だった。しかし、指先は氷のような冷たさで私に現実を突きつけた。 「ひっ――」  私は弾かれたように飛び退き、壁に背中と後頭部を打ち付けた。そのまま背中を壁に貼り付けたまま、這うようにして部屋を逃げ出す。キッチンのビニール張りの床にへたり込み、動悸が収まるのを待った。  騒ぐ心臓と入れ替わるように、思考が暴走し始める。  初めに湧いてきたのは恐怖では無く、怒りの感情だった。  どうしてこんな事に。ただでさえ毎日我慢して頑張っているのに、なんでこんな目に遭わなきゃならないの!?     
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