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私は手近に落ちていたスーツのスカートを拾い上げ、獣のような唸り声を上げて冷蔵庫へ投げつけた。空気抵抗に負けてだらしなく墜ちたスカートに、余計に苛ついただけだった。
怒りはいつしか涙に変わり、私は冷たい床に突っ伏して呻いていた。
一度流れ始めてしまうと、人生の理不尽に対する不満が溢れ出して止まらなくなった。
こんなブラック企業なんて辞めてしまえばいい。何度もそう考えたが、生活を守るためには働き続けるしかなかった。もし仕事から逃げ出しても、自己都合退職では雇用保険の手当てが支払われるまでに三ヶ月の待機期間がある。その間の生活はどうするのか? 私は霞を喰って生きる仙人では無い。
親には頼れない。それができるなら、とっくにそうしている。貯金を作って準備する? 命を削って稼いだ僅かな給与は、全て生活費で消えてしまう。節約をするような時間的・精神的余裕などは無い。
考えれば考える程自分の置かれた状況を直視することになり、それが余計に精神をすり減らした。いつしか私は心を守るために目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んだ。ただ会社の奴隷であり続けた。それが間違いであることを自覚しながら、心を殺し続けた。
それでも時折、何かの切っ掛けで発作のように思考が暴走するときがある。まさに今がそうだった。そうなれば私はうずくまり、思考の海に溺れるしかない。
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