考え過ぎる葦

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考え過ぎる葦

 耳障りな電子音が意識に波を立てる。  身体が勝手に腕を伸ばし、目覚まし時計を黙らせた。数秒経って、自分が目覚めたのだと気が付く。  意識が再び沈み込みそうになるのを、尿意が先回りして邪魔をした。少し不機嫌になりながら、身体の向きを変える。べたつく肌が不快だった。  ああ、またやってしまった。私は中途半端にボタンが外されたシャツを身に着け、下半身は下着のみという姿だった。きっと玄関から寝室に至るまでに、脱ぎ散らかされた衣服が点々と落ちているに違いなかった。  大学を卒業し、就職戦争を生き抜き、やっとの思いで就職した会社は、いわゆるブラック企業だった。およそ人間らしい意志と活力は全て絞りつくされ、私は会社に人生の全てを捧げる、使い捨て電池に成り果てていた。  仕事帰りはいつも終電。コンビニで夕飯代わりのおにぎりと缶チューハイと買い、身体に充電しながら家へ向かう。玄関を越えると、一枚ずつ衣服を剥ぎ取りながらベッドへ向かい、気絶するように倒れ込む。そんな生活をもう、二年近くも続けていた。  出勤前にシャワーでも浴びなければと思い、身を乗り出す。視線がベッドの淵を越えた辺りで、私は凍り付いた。     
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