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青信号に変わると、藤がまたグイッとペダルを強く踏む。
慣性に従って私は後ろに引っ張られるけど、これでもかってくらい藤の体を抱きしめる。
目を閉じて、夜の街を藤の赤い自転車がスーッと駆け下りてく絵を想像した。
夜の色は、黒と紺に少しの青。
そして、荷台にはもちろん吉川菜摘。
このポジションだけは、誰にも譲りたくない。
「あのさ」
大きな声で藤が言う。
「何?」
私が負けじと大きな声を出す。
「俺、小説家目指すのやめるよ」
私は文字通り凍った。
頭も体も急に固くなるのがわかった。
何だか恐ろしいことを聞いた気がした。
「え……何でよ」
私の声は震えていた。
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