吉川菜摘

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藤が今までに書いた小説は4つ。 短編2つに、長編2つ。 どれも「何とか新人賞」とかに応募したけど、箸にも棒にも引っかからなかった。 でも私は藤の作品が好きだった。 面白いのか面白くないのか、私の感性ではよくわからないけど、言葉一つ一つが丁寧で、踊るように書いてあった。 小説を書くのが好きで好きでたまらない、読んでいてそれが伝わってくる。 「才能、あると思うよ。誰にも届かなくても私には届いたよ」 私は素直に褒めてみる。 藤はそれから黙ってしまった。 藤が黙るときは何か考えてる時で、何を言っても返事をしなくなる。 だから私も黙って、でも強く藤の背中にほっぺたを押し合てて、家に着くまで自転車に揺られていた。 家に着いた後も、珍しく藤はちょっとイライラしていた。 いつもなら同じベッドで寝るのに 「ちょっと疲れちゃった」 ってぎこちなく笑って、コタツで猫みたいに背中を丸めて寝てしまった。
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