加藤忠治 

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結果から言うと、俺は秋山を採用した。 絹恵が晩飯に手を抜きはじめたからだ。 長い髪の男が嫌いか。 小説家を目指す様な男が嫌いか。 どんなに説明しても絹恵はハイハイと流すだけだった。 いつも思うが、最終的に男は女に勝てない。 これはきっと、ずっと昔から決まっていたことだ。 想像じゃない、事実だ。 履歴書に載っていた秋山の携帯番号に電話をかける。 「もしもし」 「もしもし。あの、どなたですか?」 こいつの拍子抜けする感じは本当にイライラする。 やっぱり採用するの止めようか。 ちらっと絹恵を見ると、ジーッと俺を見張っていた。 「あっ俺、加藤。お前が応募してきた雑誌の編集長。採用するから。明日から来て」 ゴホゴホっと咳き込む音がする。 「本当ですか!? ありがとうございます! 絶対落ちたと思ったー」 秋山は凄く嬉しそうに言って 「今日に限っては予感が外れてよかったです! 本当にありがとうございます!」 きっと秋山は電話の向こう側で笑っているんだろう。
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