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「藤、悩んでるみたいっすよ」
絹恵が珍しく風邪を引いて奥の和室で寝ていて、藤と八城は休み、葛西と2人きりの日だった。
「何書いたら良いかわかんねぇーっ! て酔っ払いながら叫んでましたもん」
葛西はタイピングするのを止めずに言う。
喋りながらでも仕事に支障をきたさないなんて器用な奴だな。
「あいつはケラケラし過ぎだから少しは悩んだ方がいいさ」
「そうっすねぇ」
と葛西は藤を真似てケラケラ笑った。
あぁそういえば 、と葛西は何かを思い出したように続ける。
「藤の奴、同棲してる彼女がいるって知ってました?」
「……知らん」
「1つ年上の人らしいんですけど、藤みたいな奴と一緒に暮らしてて疲れないんですかねぇ」
「ああいう犬や猫みたいな奴と一緒に暮らせんのは年上の女だけだろうな」
「あっなんか、すげーわかります」
葛西はおもむろに立ち上がると、俺の分までコーヒーを淹れる。
「俺思うんすけど、藤みたいに誰にでも優しいっつーか明るい奴って、ふいに消えてしまいそうで怖い時もありますよね」
「どういうことだ?」
俺もコーヒーを一口飲む。
絹恵が淹れるそれよりほんの少し、苦い。
「忠治さん、藤の才能伸ばしてやって下さいね」
葛西はそれだけ言うと、俺の返事を待たずに、カチャカチャとタイピングに戻った。
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