加藤忠治 

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1カ月後、藤が持ってきた原稿には、公園で歌う女子高生のことがまとめてあった。 「これ、本気で書いたのか?」 俺は藤を見据えて言った。 「ハイ、本気で書きました。彼女の歌を聴いて、俺が感じたことをすべてを込めたつもりです」 藤が珍しく笑わずに言った。 まっすぐ俺の目を見ている。 こいつでもこんな本当のライターみたいな顔をする時があるんだな。 「八城! これ掲載すっから藤のサポートしてやってくれ」 俺が叫ぶと、藤はクシャクシャっと笑った。 「葛西さん、八城さん!! 俺、やりましたよっ!!」 「私はー?」 と絹恵がイタズラっぽく笑うと、 「もちろん絹恵さんにも感謝っす」 と藤は深々と頭を下げた。 葛西と八城は目を見合わせて、同じように笑っていた。 俺は決断に揺れた。 ハッキリ言うと、やはり藤にライターの才能はない。 藤が書いてきた原稿には、女子高生の生き生きとした姿、心に抱えた闇、ギターを抱えて歌う彼女の孤独と生き様が書いてあった。 主体的すぎる。 藤は多分何度も足を運んで取材したに違いない。 それ故に、主観が入りすぎている。 客体的に事実を書けない奴を俺はライターとして認めない。 ただ、藤の文章には人を惹きつける何かがある。 これも事実だった。
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