加藤忠治 

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結論から言えば、藤は1カ月、休む事になった。 「忠治さん」 と藤は何かを決心したように、俺を呼んだ。 「忠治さん、俺に1カ月下さい」 「どういうことだ」 「俺、本気で小説家目指します。今回のでダメだったら、小説家目指すの止めます」 「お前さ、ふざけんじゃねぇぞ」 藤の胸倉をつかむ。 やめて! と絹江が高い悲鳴に近い声を出す。 「1カ月で何ができる? なんだ? 小説家目指してダメだったら、もう一度ライターに戻るってか? ふざけんじゃねぇぞ。そんな簡単な仕事じゃねぇんだ。お前みたいな中途半端な奴いらねぇよ」 「……すいません」 「……戻ってくんな。小説家の師匠として、自慢させてくれよ」 藤を突き飛ばす。 尻餅をついた藤はハッと顔を上げて 「ありがとうございますっ」 と満面の笑みを浮かべた。 葛西が後ろで八城と 「忠治さんも何だかんだ甘いよな」 と藤と同じような顔で笑っていた。 「寂しくなるわねぇ」 と絹恵が言うと 「小説家になってからもまた顔を出しに来ますよっ」 と藤は笑って言った。 「戻ってくんじゃねぇ! 走り続けろ」 「ハイっ!」 藤は深々と頭を下げて 「ありがとうございましたっ」 と仕事場から走って出て行った。
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