13人が本棚に入れています
本棚に追加
改札を出ると駅前の広場に、赤い自転車にまたがった藤がいた。
器用にバランスをとりながら、黙々と携帯をいじっている。
駅についたよ、とメッセージを送ったのに、私の存在にまるで気づいていない。
癪にさわったからわざと大きな声で、
「藤ーーーーっ!」
と叫んでやった。
目立つことが大嫌いな藤は、顔をあげると、露骨に顔をしかめた。
自転車のスタンドを立てて、慌てた様子で私に走ってくる。
よしよし、今日も忠犬だこと。
「菜摘さん、そういうのやめてって何度も言ってるじゃん」
藤は、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「今日もお疲れ様。お帰りなさい」
藤はそう言って、私の左手を握る。
「今日はカップルらしく手でも繋いじゃいますか?」
にこっと笑う藤を見ていると、この人は本当に辛いこととか悲しいことかないんだろうな、なんて失礼なことを思ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!