吉川菜摘

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握られた左手が、じわじわ温かくなり、急に恥ずかしくなる。 もう付き合ってから5年も経つというのに、いや5年も経つからだろうか、あらためてカップルらしいことをすると照れてしまう。 「嫌だよ。それより早く帰ろう?」 「了解です。そうと決まればさっさと帰りましょー」 藤は、また赤い自転車に向かって走っていく。 早く乗ってー、と荷台を指差して笑っている。 私は素直に荷台に乗って、藤の細い体に抱きつく。 「藤、もしかしてまた痩せた?」 私が聞くと 、 「菜摘さんは乗せた感じ、ちょっと太ったかもね」 藤は意地悪く笑う。 「早く漕ぎなさい」 私がイラッとして命令すると、 「ごめん、ごめん。悪かったって」 藤はグイッとペダルに力を入れた。
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