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藤の自転車の漕ぎ方は荒い。
いつもは小心者の癖に、自転車に乗ると、やたらスピードを出したがる。
だから振り落とされない様に、強く藤の体を抱きしめる。
自転車のスピードが上がると同時に、私の感情も解放されたがっていく。
藤のYシャツに顔をうずめて、わぁーーっ!と叫ぶと
「菜摘さんストレスー?」
と藤が笑って聞いてきた。
「そうだよ。藤がマトモに働かないから、こうして、藤の分までストレス抱えて生きてるんだぞっ」
私は後ろから思いっきり叫ぶ。
藤は何も答えず、急ブレーキをかけた。
鼻の頭が藤の細くて硬い背中に当たる。
思わず「わっ!」と声を出してしまった。
藤は私の方を振り返り、私も藤の顔を見上げると
「ごめんね」
と泣きそうな顔で、言った。
何だか申し訳なくなって、目を合わせていられない。
もう一度Yシャツに顔をうずめてから
「いいから早く漕いでよ」
ボソボソと言う。
「赤信号ですから 」
頭の上で優しい笑い声がして、少しほっとした。
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