吉川菜摘

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小説家になりたい。 藤の夢をはじめて聞いたのは、2人で暮らしはじめて最初の夜だった。 「俺、本が好きだからさ」 ベッドの中で私の髪をなでながら 、 「人に何かを与える本を書きたいんだよね」 と恥ずかしそうに言っていた。 私はそんな藤が愛おしくて 、 「私が働くから藤は働かなくていいんだよ。その代わり良い作品を書いてね」 と鼻息荒く言った。 「それは嫌だよ。バカじゃないの?」 藤は本気で嫌そうな顔をして、 「仕事はするから」 と珍しく、ちょっと怒って言った。 残念ながら大学卒業と同時に就職とはいかなかったけど、藤は小さい会社でライターとして働きはじめた。 けど、藤の1ヶ月の収入は、大手のインフラで事務をしている私の収入の半分程度。 藤はすごく、本当にすごくそのことを気にしている。 だから、私も普段はお金の話をしない。 けど、たまに今みたいな失敗をするから、私って本当バカだなってつくづく思う。
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