目が覚めると

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

目が覚めると

不思議な感覚に目を覚ますと、私は床に着いた時に着ていた寝間着ではなく、純白の膝小僧まであるワンピースを着て、はだしのまま砂浜に佇んでいた。 辺りを見渡す限り、水平線まで伸びた砂浜だけが、私だけの世界が作り上げられていた。 立ち竦んでいても仕方ないと思い、私は海沿いに歩き出し、目覚める前の事を思い出す――。 *  *  * 「おやすみなさい」 彼はそう言って、私の額に軽くキスをした。 いつもの儀式。愛しい子が安心して寝られるようにする、母親のような魔法な行為。 触れた額に残る唇の感覚に毎度のことながら慣れないものだ。 その感覚のくすぐったさに 仕事の続きをするために立ち去っていく姿を見つめながら、部屋から見えなくなった彼に対し、私も小さく返事を返して、早めの就寝をとったのだった。 *  *  * サクサクと砂を踏みしめながら、あてもない散歩をどのぐらいしただろうか。 後ろを振り返ると永遠に続くように見えるほど、自分の残した足跡が彼方まで伸びている。 海のさざ波の音だけが聞こえる中で、誰一人としていない世界で孤独になったような感覚に見舞われたような気になってくる。 寂しさが不意襲った。 裾に砂が付くことも構わずにその場にしゃがみ込む。それと同時にジワリと溢れる感傷を隠すように、両手で顔を覆う。 その行為自体が、より一層の孤独感を深刻化させるとは思いよらず、誰かが気にかけてくれることなんかないはずなのに、助けて欲しいと願わずにはいられなかった。 そして、誰もいないからこそ、ずっと塞ぎ込んでいても仕方がないのだと悟る。 だから私は意を決して立ち上がり、海と砂浜の境界線上に歩くのではなく、続く地平線の先に行こうと足を向けた。 これは夢なのだから、何か進展があるかもしれない。そして、この夢から起きるはず。 と言い含めて、私は歩先を見据える。 愛する人のもとへ戻ろう。夢から覚めるように。 いつものようにおはようと言ってくれる彼の元に。 ――――夢うつつの中で、現実に戻るまでは迷子ではいられないから……。 終わり *** ツイッターに上げたものを、コンテスト用に書き起こしました。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!