二人の最期

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 頭上で鳴り響く目覚まし時計の音で幸介は目を覚ました。  またしてもあの夢を見ていたのだ―ぼうっとした頭のまま、幸介は上半身を布団から起こした。  今から二十年前、まだ自分が赤ん坊であった頃に、両親は交通事故で亡くなった。ちょうど二人の間に挟まれるようにして自分だけが助かったらしかった。  当時、赤ん坊だった幸介は、二人についてなにも覚えていることはなく、引き取ってくれた伯父夫婦のことを親だと思い過ごしてきた。  伯父夫婦から本当のことを聞かされたのは、幸助が成人した後だった。今まで親だと嘘をついてすまなかった―そう言われたが、伯父と伯母には感謝することはあっても、恨むわけなどなかった。たとえ生みの親でなかったとしても、二人が自分の親であることは変わりない―そう幸介は思っていた。  それに、二人の口から聞く前からなんとなく、自分はこの家の子どもではない―というような気はしていた。それは誰からなにを言われたわけでも、されたわけでもなく、子どもの頃から何度も繰り返し見ていた夢のためであった。  それは決まって、一面真っ白の場所でのできごとだった。赤ん坊の姿をした幸介は見知らぬ男と女の間で抱きかかえられていた。それ以外にはなにもない、ただ二人の腕の中ですやすやと眠っているだけの夢だった。  二人の腕に抱えられているとき、ほかにはない安らぎを感じることができた。しかし、しばらくすると白い世界とともに二人は消え去っていき、自分だけが現実の世界に戻されてしまうのだった。  自分も二人と一緒に白い世界に残ることができたら―朝になって目を覚まし、幸福の余韻と後から来る寂しさを幸介はいつも感じていた。  いつからか二人が自分の本当の親なのだと思うようになっていた。そして今、それは紛れもない真実であることがわかった。  もしも二人が生きていたらどんなことを話しただろう、二人はどんな性格をしていたのだろう、どんなふうに生きてきたのだろう―いくらそんなことを考え続けても、答えが出ることはなかった。
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