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「どこ?どこにいるの?」
「ほら、村長の隣よ」
「やだあ、若いじゃない。それに美形ね」
「すっごく綺麗な白い肌」
「あんな青い目をした人はこの村にはいないわよね」
「聞いた?帝国の軍人の方なのですって」
酒場で華やかな衣装に身を包んだ踊り子の娘達が舞台裏から酒場のほうを覗いては嬉々とした声をあげている。リトは靴の紐をきつく結びながらそれを横目に見て、大きくため息をついた。どうして皆、よその人間をああも簡単に信用できるのだろうか。
「リト、あなたあの帝国の方と話したのですって?」
同じく衣装に身を包んだドリーが肩口で切りそろえられた短い黒髪を櫛で整えながらリトに話しかけきた。ドリーはリトの幼馴染でリトと同じ村の踊り子だ。
「どんな人だった?」
「どうって……」
リトは靴紐を結んで立ち上がった。軽くつま先で床を叩いて紐の縛り具合を確かめる。
「偉そうな異人だったわよ」
「綺麗な人よねえ」
ドリーはリトの話などまるで聞こえていないらしく、舞台裏からそっと酒場を覗いては村の者と談笑する帝国の人間を眺めている。
「よその人間なんて何を考えているのか分かりもしないのに、なんで皆あいつに好意的なのよ」
リトの不機嫌な声にドリーは口元に手をやっておかしそうにくすくすと笑った。
「相変わらずね、リトのよそ者嫌いは」
ドリーの言葉にリトはむっとして横を向き、そして他の踊り子達のはしゃぐ姿が目に入り、再びため息をついた。
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