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「今日の仕事は昼で終わりのはずだったのに、どうして客人のためにわざわざ日が暮れてからも踊らなきゃいけないのよ」
リトは悪態をついて両腕を組んだ。
「あいつのせいで仕事が増えたってのに、皆、嬉しそうにしちゃってさ」
「いいじゃない。夜に踊った方が村の男達もたくさん見に来てくれるのだし」
そう。踊り子達の喜んでいる理由のひとつは美形のよそ者が来たことだが、もうひとつの理由にはそれもある。
「あなたも嬉しそうよね。ドリー」
「えっ?」
とたんにドリーが明らかに動揺の色を見せた。
「ジョルジュ。今夜、来ているのね」
リトがからかうと、とたんにドリーの顔はみるみる内に真っ赤になった。まるで熟れたトマトのように赤くなったドリーを見てリトは思わず吹き出した。
「仲むつまじいようで良かったわ」
「もう、リトったら!からかわないでよ」
ドリーは丸顔で優しげな面立ちから、一見おっとりとしたおとなしそうな人物に見えるが、その実はなかなかのしっかり者だ。その踊り子達の中でもお姉さん的立場でいるドリーがジュルジュの話となるととたんにしおらしくなるのだから、恋とは不思議なものだ。
「リト、あなたこそどうするつもりなの?」
「どうって?」
リトの問いに、ドリーはさきほどまでとは一転して真面目な口調で言った。
「だって踊り子達の中で特定の相手がいない女はもうあなただけよ」
「そうね」
リトはあっさりと肯定した。踊り子の中で最も若いデイジーでも、もう立派に酒の相手をする男を見つけている。
「リト。あなたはそれでいいの?」
ドリーが心配そうに言った。
「このままだと、あなた一生独りでいることになるかもしれないのよ」
「ええ」
リトはそっと目を伏せると、冷めた口調で肯定した。
「私は、そうなるのかもしれないわ」
「声をかけてくる男だっていないことないのに、どうして断るのよ」
「だって、嫌、なんですもの」
リトはわざと嫌を強調して言った。
「どうして私が男の酒の酌をしなきゃいけないのよ。踊りをするだけで十分でしょう」
「リト、あなたねえ……」
ドリーはあきれて大きくため息をついた。
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