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「まずはあなたのその勝気な性格をどうにかしなきゃならないわね」
手を2回叩く音がして女主人のテレサが舞台裏に顔をだした。
「時間だよ。皆、男達を楽しませておやりよ」
「はあい」
踊り子達は声を揃えて返事をした。太鼓の音が鳴り始める。そのリズミカルな音を聞くと自然にリトの体は高揚し始めた。
踊りたいと、体が言っているようだ。
「行こう」
誰ともない合図と共に、踊り子達が一斉に舞台にあがった。踊り子達が舞台にあがると、待っていましたと言わんばかりに客の歓声があがった。踊り子達が舞台にあがることで華やかな色が舞台に溢れる。リトもその衣装の裾を翻して華麗に踊った。複数の集団の中で誰よりの綺麗に、生き生きと踊る。
リトは踊ることが何よりも好きだった。どんな時も音楽を聞けば自然と体は動きだし、まるで水を得た魚のようにリトの体は踊りだす。時には華麗に、時には陽気に、時には妖艶に。足を振り上げ軽やかに踊り子達は舞台上で舞った。
踊りが終わると同時に、酒場に大きな喝采があがった。男達の拍手と歓声を受け、踊り子達は舞台を降りる。そこで皆、自分の相手のもとへ向かい酒の相手をしに行く。リトは皆から外れてひとりカウンターへと向かった。リトには特定の相手がいない。だからいつも踊り終わると客のもとへは行かずに、女主人のテレサと一緒に酒や軽い軽食を作るのが毎度のことだった。
カウンターへ向かう途中リトは後ろから肩を叩かれた。振り返るとそこに村長がいた。
「リト、ちょっといいかい?」
「……なんですか?」
ひょっとして昼間のことで小言を言われるのではないかと思い、リトは思わず身を硬くして警戒した。
「リト、お前今も酒の相手がいないそうだな」
「はい。いませんが」
それを聞くなり村長は嬉しそうにしわだらけの顔をほころばせた。
「それならちょうどいい。相手をしてくれないか?」
「村長の、ですか?」
リトは驚いて聞き返した。村長は今まで酒場に来ても踊り子に相手を要請しなかった。なぜなら奥さんが怖いからだ。村一番の恐妻家が、なぜ今日に限ってそんなことを言うのだろうか。
「いや、わしのではない」
慌てて村長は手を振ると言った。
「客人のユーリさんの相手をして欲しいのだよ」
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