14人が本棚に入れています
本棚に追加
それを聞いてリトは思わず顔をしかめた。
「嫌です」
「そう言わずに頼むよ。……リト、お前きっとあの方に何か失礼なことをしたのだろう?」
村長の言葉にリトは昼間の外での出来事を思い出した。あのときリトはずっとあの男に刀を向けていた。
「あの人が私のことで何か言ったのですか?」
あの男、村長に告げ口をしたのだろうか。
「いや、ユーリさんは何も言わない。だが、あの場の様子からお前がユーリさんに失礼なことをしたのだろうということは容易に想像がつく」
村長はそう断言するとリトにしわだらけの顔を近づけ厳かに告げた。
「これは村長からの命令だ。あの方の酌をしなさい」
「嫌です!」
リトは怒って声を荒げるとカウンターへ身を翻した。どうして私がよりにもよって、よそ者の酌をしなければならないのだ。リトは村長を無視してカウンターへ逃げ込もうとした。そこでテレサと鉢合わせた。
「テレサ……」
この酒場の女主人、テレサはカウンターの入り口に手をついて立ちふさがっていた。どうやらリトと村長の会話をそこで一部始終聞いていたらしい。長身のテレサはタバコを口にくわえたまま、じっとリトの顔を見下ろしていた。そしてタバコの煙をリトの顔に吹きかけながらしゃがれた声で言った。
「リト。いってきな」
「でも、テレサ。私……」
「これも仕事のうちだ。行っておいで」
テレサにそう言われてしまってはもう何も言えないではないか。リトはぐっと黙り込んでうつむいた。
「酒の酌をするだけでいいんだ。頼むよ」
村長がそう言ってリトの肩を2度軽く叩いた。リトはがっくりと肩を落とした。こうなってしまってはもう逃げ道はなかった。
***
最初のコメントを投稿しよう!