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細長い山の坂道を一気に駆け上がる。
ひとつに結んだ癖毛の長い黒髪が馬の尾のように跳ねる。すらりと伸びた手足は健康そのもので、急な坂道も元気よく上る。
坂を上りきったところで足を止め、リトは息を切らせて、あたりを見渡した。よく日に焼けた浅黒い肌をした彼女は年齢も若く顔立ちも整っているが、その特徴ある大きな黒い瞳は彼女の性格の気の強さを感じさせている。リトは目の前の緑の茂みの一点に目を留めた。そしてまるで幼い子供に戻ったかのように無邪気な笑顔を浮かべた。
「ロン。みーつけた」
すると茂みの後ろからリトと同じく浅黒い肌の色の男の子が罰の悪そうな顔をだした。
「あ~あ、見つかっちゃった」
リトはしぶしぶ茂みから出てきた男の子に笑って手を差し伸べた。
「おいで」
とたんにロンと呼ばれた男の子はぱっと笑い、リトに駆け寄った。
「リト姉。あと見つかってないのは誰?」
リトが答えようとしたそのとき、子供たちのリトを呼ぶ甲高い声が聞こえてきた。
振り返ると先ほどリトが上ってきた坂道を数名の子供たちが短い手足を懸命に動かして駆け上がってくるのが見えた。
「あっロンだ」
一番に坂道を上ってきた男の子がロンを見て言った。
「じゃあ、あとは見つかっていないのはミミだけた」
あと一人、まだ見つかっていない。リトは空を仰いだ。背の高い木々に囲まれたこの場所から見える空はどこまでも青いが、太陽は天頂よりやや傾いだ場所にある。太陽は昇るより、落ちるほうが早い。
「もう日が傾いてきたわ。あんたたち、先に村に帰ってな」
「ええっ!でもミミは?」
子供たちの一人が不安そうに声をあげた。
「大丈夫。私が探しだして連れて帰るから。遅くなるとお母さんが心配するでしょう?」
リトは腰を屈めると子供たちと同じ目線になった。
「ラキ、あなたこの中で一番お兄ちゃんでしょう?皆を連れて帰れるわよね?」
するとラキと呼ばれた年長の男の子が任せろとばかりに胸を張った。
「帰れるさ!」
くるりとリトに背を向けるとラキは不安がる子供たちに向かって言った。
「さあ帰ろう。お母さんが心配しているぞ!」
お兄ちゃん風を吹かせたラキを先頭にして子供たちはぞろぞろと坂道を下り始めた。リトは村へ帰る子供たちを見送ると、山奥へと足を進めた。
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