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風が吹きあたりの木々が心地よさげに音を鳴らす。
基本的にこの村の領内は安全だが、一歩でも村の境界線を越えると危険がないとは言い切れなくなる。
「あまり遠くに行っていないといいけれど……」
茂みの奥へ進みながらリトはミミを呼んだ。
「ミミ、どこにいるの?遅くなってきたわ。かくれんぼは終わりにして、そろそろ村へ帰ろう」
山道をさらに奥深く進み、そろそろ本当に心配になりはじめた頃、ふいに頭上からすすり泣く声が聞こえてきた。見上げると頭上に張り出した太い木の枝から小さな足が2本ぶら下がっているのが見えた。
「ミミ?」
リトの呼びかけに答えるように木が揺れて、涙で目を腫らしたミミの顔が生い茂る葉の間から覗いた。
「あんた、こんなところに居たの」
村の子供たちの中でも一番幼いミミがまさか木の上にいるとは思いもしなかった。よくもまあ、一人で高いところまで登ったものだ。
リトは驚きつつも見つかったことに安堵して泣きじゃくる樹上のミミに向かって手を伸ばした。
「ほら、降りておいで」
ミミは黙って頷くと、リトの手に導かれて木から降りた。
「あんた、何泣いているのよ」
「だって……」
ミミはリトの腕の中で鼻をすんと鳴らした。
「ミミは頑張って隠れたのに、誰も見つけてくれないのだもの」
どうやら長い事木の上に一人で隠れていて寂しくなってしまったらしい。リトはミミの柔らかな黒髪をそっと撫で、髪についた葉を優しく取り除いた。
「あのね、ミミ。あんた最後まで見つからなかったのよ。これってすごいことよ」
「すごい……?」
ミミは涙で揺れた目でリトを見た。泣きすぎて目のふちまで真っ赤になっている。
「そうよ。ミミはかくれんぼの達人よ。こんなに探しても見つからないなんて。だからミミはすごいの。泣くことなんてないわ。むしろ自分を誇りに思ってもいいくらいよ」
そう言うとリトはミミに笑いかけた。
「ねっ?」
「……うん」
リトの言葉を聞いてミミは涙を拭って頷いた。
「さぁ、帰ろうか」
リトはミミの小さな手を取ると村へ帰ろうとした。
そのときだった。まわりの茂みが音をたてて不穏に揺れた。リトは嫌な気配を感じ取り、すばやくミミを背後に隠した。
「なんだ、女とガキか」
茂みの奥から現れたのは数名の男だった。
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