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「や、やめてくれ……」
刀を突きつけられたリーダー格の男が情けなくも弱弱しく声をあげた。
リトは全員が刀を下ろしたのを確認すると男の背を押した。リトに強く背を押し出されて男はよろりとよろめいた。
「去れ。そして二度とこの村に近づくな」
敵わないと判断したのだろう。男達は一目散にこの場から逃げ出した。
「まったく……」
リトは息をつくとようやく刀を下ろした。そのときだった。パチパチと手を叩く音がした。
「誰っ!?」
リトはぎょっとして音のするほうへすばやく刀を構えた。まだ残党がいたのか。
「驚いたなあ」
その場の剣呑な雰囲気を打ち破ってのんびりと間延びのする声がした。そして茂みの後ろから背の高い若い男が姿を現した。
ーーまたよそ者。
リトはその男を見て警戒を強めた。
年の頃はリトと同じぐらいだろうか。すらりと背の高いその青年はさきほどの男達とは違う人種のようだが、またゴーランの者でもなかった。肌は透けるように白く、髪は日の光を受けてきらめく金髪だった。そして瞳は澄み渡る秋空を連想させるような綺麗な青だった。線が細く、男にしては柔らかい中性的な顔立ちをした彼はその顔に微笑みを浮かべ、穏やかな物腰で言った。
「あぁ、安心してください。私は怪しい者ではないですよ」
彼は白い軍服を着ていた。そのことが余計にリトを警戒させた。刀を男の胸元にぴたりと向けたまま、リトはきつい口調で尋ねた。
「あんた、何者?」
「私の名前はユーリ・ランドル。帝国の命を受けて、こちらゴーランの村に用があって参りました」
「なんで帝国の人間がゴーランみたいな田舎村に用があるのよ」
リトは刀を持つ手に力をこめた。リトの知る限り、今まで一度だってゴーランに帝国の者が来たことなどなかった。リトは男をじっと睨みつけた。こいつは怪しい。
「そんなに警戒しないでください。本当に怪しい者ではないのですから」
男は困ったようにそう言うと、その意を示すように両手をあげた。
「ほら、あなたと争うつもりもありませんよ」
「それならどうして私を助けようとしなかったのよ」
刀の切っ先を片時も男から離さずにリトは尋ねた。
「普通、女子供が襲われていたら、助けに入ってくれてもいいものじゃない」
「助けようと思いましたとも」
男は両手をあげたまま穏やかな口調で言った。
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