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「雪が、降ってきましたね」
カメラから目を離さずに彼女は言う。
周りの風景を撮るのに夢中で、俺が近くに来ていることには気づいていないから、これは返事を求めていない独り言だろう。
「明日の朝には、積もってるみたいっすよ」
が、被写体のみに向けられた関心の一部だとしても、こちらに誘導できる機会を逃すわけにはいかない。
カメラを持った彼女から、一言でも返事が貰えればいいなと思っていたのだが、
「わ、びっくりしました。いつから居たんですか?声をかけてくれればよかったのに」
予想に反し、彼女はカメラから目を離して瞳の焦点をこちらに合わせてくる。
不意打ち気味の彼女の行動に少し、固まってしまう。
彼女の真っ直ぐな視線は、何度経験しても慣れることができない。
「どうかしました?私、何か付いてます?」
不思議そうな色を強めた彼女の瞳から逃げるために、後ろに回り込み、告げる。
「ええ、髪に雪が積もり始めてますよ、払いますね」
コクリと頷いく髪から覗く彼女の耳は、寒さのせいか、少し赤くなっていた。
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