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甘い物は美味しい。 甘い物は肉体を癒す。 甘い物は心を満たす。 だけど甘い物は、 求め過ぎると危険だ。 「あの、すみません!」 冷たい校舎の中に溶けた声が上擦ったのは、少し走ったせいだ。前を行くその背中を、慌てて追いかけてきた。 すれ違ったのは、二つの校舎を繋ぐ渡り廊下。 午後4時を過ぎたこの時間は、生徒を教員も殆ど歩いていない。その場所で、私はその人とすれ違った。 見慣れた制服の生徒。校則違反の茶色のローファーが視界に入り、一年生ではないことを理解する。 カトリック系の私立高校に入学して間もない私は、クラスメイトから集めた風紀アンケートの集計を終えて、職員室にいる担任の元へと届けた帰り道を一人歩いていた。 俯いているつもりもないけれど、私の視線は大抵下を向いていて、世界を半分しか捉えようとしない。だから、渡り廊下の向こうから歩いて来るその人に気づいたときもそうだった。
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