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どうしてそうしたのかはわからない。 単純に失くして困っていると思ったからかもしれない。あるいは、良い事をしたかったのかもしれない。 まだ話す相手も少ないこの高校の中で、自分の存在を少しでも確かなものにしたかったのかも。 とにかく自分でもはっきりしないままに、私は顔も良く見ていない相手を探した。 意外と簡単に見つかったのは、もう放課後の人が少ない時間帯だったせいだろう。今まさに廊下を曲がり階段を上っていこうとする背中を、私は急いで追いかけた。 走るのは得意じゃない。さらに言えば、見知らぬ人に声を掛けるのはもっと得意ではない。だから距離が近づくのを感じる度に緊張した。鼓動が速くなる。息が上がるのは、走っているせいだ。それでも二階に着き、第二視聴覚室の扉が奥に見えた時、私は覚悟を決めて声を出した。 もう飽きるほどに見た制服のブレザーの、厳格な紺色に向かって声を出した。 「あの、すみません!」 上擦った声に、恥ずかしくて視線を下げる。 すぐそこで、知らない誰かの声がした。 「え、俺?」そう言ったような気がする。だけど焦っていて、はっきりとは覚えていない。 茶色のローファーがまた、私の視界に入った。 「あの、私、」 鍵を届けに来たと言えばいいだけなのに、上手く言葉にならなかった。何故か、自分が危険なものと対峙しているような恐怖感すら覚えた。
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