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「だったら、俺と結婚すればいい」
「え?」
「その為に帰って来たって言ったら、羅々ちゃんはどっちを選ぶだろうね」
熱かった。身体中が熱を帯びて、お腹の奥が疼いて溢れ出す。吹奏楽部が奏でる「花のワルツ」に隠れて、私の全てを奪った男。私が全てを差し出した男。
「私は、司君を選びます」
だけどこの男とは、幸せになれない。
千尋先輩の胸元を押すと、その手はすぐに離れていった。
「じゃあ、来週の火曜日に」
「……失礼します」
私はその顔を見ることなく、資料室を後にした。
すぐそこに、夢に見た幸せな未来が待っている。
だから真っ直ぐに歩けばいいだけだ。
大好きな人の手を握ったまま、歩けばいいだけだ。
立ち止まって、振り向いたりしない。
吉岡千尋はもう、過去なのだから。
千尋先輩は、私のものにならない。
私がどれだけ望んでも。
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