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帰りのバスは、休日とはいえ夜遅いので、乗客は俺を含めて2人しかいなかった。田舎では22時ともなると、人はほとんど寝静まっている。15分くらい走ると家の近くの停留所に着いた。俺が最後の乗客だった。ここからアパートまでは歩いて10分くらいだ。俺はいつもここを歩きながらタバコをくゆらすことを日課にしている。....家にライターを忘れた。タバコは帰るまでおあずけみたいだ。 空を見上げると、星が真っ黒な空に瞬いていた。今日は新月か。新月の夜は星の光がいつもより強く感じる。君がいなくなってから、もうどのくらいだろうか。別に大きなケンカがあったわけでもない。ただなんとなく、お互いに我慢やスレ違いが増えていった。その積み重ねが大きくなって、やがて取り返しがつかなくなった。今夜は月明かりという道標もない。俺は何処へ行こう。君がいなくなってから、俺の心は風通しが良くなったよ。何もかもが上滑りしていくんだ。失ってから気づいた。大切なんだ。離れてから気づいたって遅いんだ。足音が聞こえる気がするんだ、他でもない君の。ふと、「どこまでも限りなく、降り積もる雪とあなたへの思い」、という歌詞を思い出した。坂の下にぽつん、と佇む街灯には俺の影だけが落ちていた。
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