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牙も祈れば
身体の真ん中に穴が開けられ、紐を通されたとき、わたしはとても誇らしい気持ちになった。
生まれてすぐに役目を終えて、海の底に落ちたわたし。そしてその兄弟たち。
みんなで一緒に海底の砂になるのかと覚悟していた。
流れ、流され、砂浜にまでたどり着いたのは、ただの偶然。少女に拾われたのは本当に幸運。
彼女には感謝のきもちでいっぱいだ。
彼女はそのあと、いろいろ勉強したらしい。わたしの加工方法なんて学校じゃ教えてくれないものね。
ちょっと不器用だけど、無事にペンダントになれたわたし。
せいいっぱい背伸びして、彼女はわたしを、男の首にかけてあげた。
「お父さん、お守りよ。これがあると、海の事故に遭わずに済むって」
「……サメの牙……これは、イタチザメかな」
男は、わたしの姿を見てすぐに正体を当てた。
少女はとびきりの笑顔を浮かべて、
「ちょっと縦長のハートみたいで、可愛いでしょ。あたしが拾って、お母さんと一緒に作ったの。前に水族館で見たことがあったから……あれよりは、ずっと小さくなっちゃったけど」
「ああ。あそこにあったのは、ホホジロザメのだからね。とびきりデカいし、それに馬鹿みたいに高かった」
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