そんぐらい自分で考えろよバカ

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そんぐらい自分で考えろよバカ

 妹の宇宙葬はそれから三日後ということになった。遺体が親族であっても、仕事を休むことはできない。自らの手で、妹を空へと打ち上げなくてはならないのだ。  私は妹の思い出の品にスマートフォンなど、たくさんの品を選んだ。それは他人から見れば、がらくたのように見えるだろうと思ったが、私にとっては世界に一つだけの宝物だった。    妹の宇宙葬の当日、私は仕事場を抜け出して彼を発射場近くのカフェに呼び出した。 「妹の宇宙葬の打ち上げを一緒に見よう」  といったら、直ぐに来た。彼は私の仕事について妹から全く知らされていないようだった。少し悲しいような気分にもなったが好都合だった。    彼はカフェにスーツを着てきた。先に来ていた私は飲んでいたアイスココアを吹き出しそうになった。スーツが死装束なんて笑わずにはいられない。  そんな私とは対照的に彼は沈痛な面持ちで、 「同じものを」    と通りがかったウェイトレスにたのんだ。 「顔色が酷く悪いですよ、それに頭に何かついてます」    私は柔らかい声音を意識していった。 「本当ですか、どこら辺ですか?」 「右上の辺り、鏡で見てきたらどうです?」    そういうと、彼はトイレに向かった。なんて単純な男だろう。  彼がトイレに入るタイミングで丁度、飲み物が来たので、事前に砕いてあった睡眠薬を入れた。妹が妊娠初期の症状で具合悪く寝つけないからと使っていたものだった。  あの日、レストランで食事をした時に私が気付いていればと、何度も自分を責めたが、どんなに集中して慎重に妹と話していたとしても気付かなかっただろうとも思った。私は医者じゃないし、観察力があるわけでもない。  そんなことを考えていると、彼が戻ってきた。 「何もなかったですよ」 「おかしいな、どこかで落ちたのかもしれない」    そう私が返事をすると、彼はココアに口をつけた。薬は効果が出るのに三十分かかると書いてあった。  私はそれから二十分後にカフェを辞し、発射のよく見える場所があるから、といって彼を車に乗せた。行き先はもちろん私の仕事場だ。  仕事場に着くと彼は眠っていたので足を持ち、頭を引きずって妹の棺まで運んだ。
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