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次にまわりの家具や小物を調べた。冷蔵庫にはまだ食べ物がたくさん残っていた。ベッドの上に充電中の妹のスマートフォンがあった。私は暗証番号を知っていたので解除しSNSや写真を確認した。
画面をスクロールする中で一人、知っている名前を目の端で捉えた。彼氏の名前だった。私はそこを開き、一番最近のやり取りを読んだ。三日前が最後だった。
『私、最近具合悪いっていってたじゃん?』
『いってたね、大丈夫?今からそっち行こうか?』
『ううん、大丈夫なんだけどだから今日病院いったんだよ』
『えっ、そんなに具合悪かったの?ごめん、気付かなくて』
『ううん、いいの』
『それで、お医者さんはなんて?』
『あのね、私たぶんだけど妊娠したみたいなの……』
『は?まじでいってんの?』
『うん……こんな嘘つかないよ』
『なんで?俺ちゃんとゴムつけたし、おまえ管理できてなかったんじゃないの?』
『いや、でもゴムだって100%じゃないし……』
『なに?俺が悪いってこと?妊娠したのは自分のくせに?』
『そうじゃない、でもそんないいかたしなくたっていいじゃん……』
『俺おまえと別れるわ、この歳で子供とか無理だし』
『待ってよ私は中絶するかしないかを話そうと思ってたのに……』
『は?ふざけんなよ、その金は誰が払うんだよ?なんで俺がお前の中絶に金払わなきゃいけないんだよ?』
『じゃあ私どうしたらいいの……?』
『そんぐらい自分で考えろよバカ』
私は今度こそ、絶叫した。妹の死に対する悲しみの絶叫はなかったのに、恨みの絶叫は直ぐに出てきた。スマートフォンを壁に投げつけてやろうとも思ったが、止まった。
「落ち着け、落ち着け」
自分にそう言い聞かせ、再び冷静さを取り戻し、彼氏と妹のやり取りをスクリーンショットして、私のスマートフォンに送ろうとした。その時、私へ宛てたメッセージの下書き欄に、なにやら書いてあるのに気付いた。
『ごめんね、お兄ちゃん。ありがとう、お兄ちゃん。こんな出来の悪い妹で、最後までお兄ちゃんに迷惑かけちゃったね』
私はここにきてやっと泣いた、泣くことができた。妹が死んだのだということを肌で感じた。今、私の後ろで吊られているのが妹だという実感はないのに、下書きの文章が妹の死を雄弁に語るのだった。
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