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空に想いを
今日も死体をいくつか宇宙に飛ばした。
といっても私が殺した訳でも、好きでやっている訳でもない。ほとんどの死体は衰弱、老衰によって天寿を全うした人のものだ。
ではなぜ、そんなことをしているのかといえば、それが私の仕事だから、ということになる。けれど何の仕事をしているのかと聞かれたら私は、地方公務員と答えるだろう。だって宇宙葬をしているだなんていったら、気味悪がられるに決まっているのだから。
という訳で、私はとある町で宇宙葬をしている。人口が爆発的に増大し、土地不足になって久しい今日、葬式の形式は宇宙葬が主流となった。墓を立てられるほどもう土地に余裕はないし、科学の進歩によって宇宙葬の方が遥かに安くなった。
私の町ではだいたい一日に五体ぐらいの死体を打ち上げる。一時、安置所に保管されてから順番に打ち上げることになっている。
私のもとに遺体が運ばれてくる頃には、すでに遺族は別れを済ませている。なので私は一人で何体もの遺体と向き合い作業をすることになる。それぞれに合ったサイズの棺に納めて打ち上げるという簡単な仕事だ。棺の中には予め遺族から預かってある、いわゆる思い出の品を詰めたりもする。打ち上げは毎日夕方、昼間だと騒音だの気味悪いだのと苦情が来るので公務員の私が片付けを含めて定時に帰れるギリギリのこの時間になるのだった。
棺は打ち上げられると、虹のように様々な色の煙を吐く。そうすることによって遺族が、どの棺が自分達のものなのか判別できるようにしている。例えば今日なんかは、赤、黄、青、緑、黒、の五体だった。それを私はそばの丘で眺めた、打ち上げ時は近くにいると危険だということで一定の距離、離れなくてはならない。
打ち上げられた棺は燃料の尽きるまで宇宙空間をさ迷い続け、いずれ止まる。短くても太陽系に留まることはないらしいから宇宙ゴミとして問題になることもない。
──死んだら星になる
むかしの人はなかなか先見の明がある。まさにそうなのだ。
「あれは妻だろうか……」
なんて台詞と共に、若くして妻をなくした男が夜空を見上げる。というようなシーンを映画やドラマで何度もみた。
「妻がみているから」
といって夜空を指差し、女性の誘いを断るシーンも印象に残っている。
宇宙葬が普及してから、空を見上げるのには特別な思いが伴うようになったのだった。
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