第2章 伸ばしかけた手

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第2章 伸ばしかけた手

side ヒショウ オレは小さい頃、愛された覚えがない。 親からも、誰からも。 親は、今ではよく居るのか知らないけど、ネグレストってやつだったんだと思う。 小さなアパートの中でオレがして良いことといったら…。 静かに押し入れの中でじっとしておくこと。 誰とも喋らない事。 まるで居ないかのように暮らすこと。 静かにトイレに行くこと。 それだけが、許されていた。 父親は早々に家を出ていってしまったので、女手一つで子供を育てるのはさぞかし大変だったんだろう。 母親はたまに、食べ物だけ押し入れの中に放り込み、何事も無かったかのように家を後にすることもあった。 部屋には誰も居ない。 だけど、オレはずっと言いつけを守り、押し入れから1歩も出なかった。 真夏は、押し入れの中で服を脱ぎ、裸で寝そべって。 真冬は、小さな手で自分の身体を抱きしめ、寒さに震えて。 『ねぇ、誰か助けて……』 そう言って伸ばした手は、誰にも見つけてもらえなかった。 そして、いつしかオレは、手を伸ばすことを諦めたんだ……。 1番苦しかったのは、たまに帰ってきた母親が、毎回毎回違う男と寝ている時。 ヨガり狂った母親の伸ばした手が、空を切る瞬間だった。 まだそんな行為の意味を知らなかったオレは、少しだけ開いた押し入れの隙間から、母親の心配をしていた。 『お母しゃん、どこか痛かと? なして泣くと? そんおいちゃんにいじめられとーと??』 母親の喘ぎ声を泣き声と勘違いしていたオレは、苦しそうな母親の声を聞きたくなくて、ずっと耳を塞いでいた。 本当は、愛されたかった。 必要とされたかった。 無償の愛に憧れていた。 ………………誰かに、伸ばした手を掴んでもらいたかった。 _____助けて、欲しかった……。
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