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「隊長、カエデちゃんって怖いんですね」
今夜の夕食を取り上げられたボーマは、同じく夕食を取り上げられたタイサの隣で呟く。
2人は暗くなる前に自分達の食料を確保しようと、森の茂みの中で息を潜めていた。
「手を出すなよ?」「いやぁ無理ですね」
タイサの一言にボーマは即答する。
そして静かに獣が通るのを待つ。
「ボーマ、今のはどういう意味だ」タイサが首をかしげる。
「あ、いや特に深い意味は………って、隊長! 武器は良くないです。はい、落ち着いてくださーい!」
腰の剣を抜きかけているタイサを前に、ボーマは全力で両手を振ってタイサの腕を押さえた。
タイサは口を尖らせながら剣を鞘に納めると、2人は揉め合う寂しさに包まれ、一緒になって溜め息を吐く。
「しっかし隊長、俺達は今どの辺にいるんですかい?」
再び茂みに隠れたボーマがタイサに尋ねる。
デル達王国騎士団が向かったのはカデリア自治領の東の果て。王都からの最短ではシモノフの大関所跡の街を抜け、さらに旧カデリア王国の中心、ブレイダスからさらに東へと進む。普通の行程でも6日から7日はかかる。
対してタイサ達はギルドの依頼先だった南の街を通り、それからはひたすら使われなくなった街道跡、馬車が1台通れる程度の森を進んでいる。
太陽の向きから東に向かっていることは分かっているとボーマが言うと、タイサは指を1本口元に立てた。
「何かくるぞ」
タイサの言葉にボーマは口を閉じ、奥の茂みで物音を立てているものをじっと待つ。
茂みから出てきたのは頭に角を生やした1匹の野豚だった。
「ボーマ!?」
「いや、自分ここにいますから。あれ豚ですから」
絶対わざとですよねと、ボーマが目を細めてタイサの顔を見る。
「冗談だ」「まぁ、分かっていますが」
改めて野豚を見る。野豚は潰れた鼻で地面を嗅ぎ回り、土の中の小動物や地面の上に落ちている木の実、何かの種を漁っていた。
まだこちらには気づいていない。
野豚は成獣ではないが、子どもくらいの大きさでも夕食どころか明日の食事にも困らない。タイサはボーマに指示を出し、同時に茂みを飛び出した。
野豚は突然現れた人間の姿に驚き、咄嗟に頭を下げて角を向けて威嚇している。
「夕食のために!」
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