第三章

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 シドリーは土埃で汚れたメイド服を軽く手で払うと、追撃したアモン達の方角を向く。それに合わせるかのように、シドリーの背後から伝令のゴブリンが走ってきた。 「さぁさぁ、追い付くぞぉ!」  背後から狼男の声が聞こえる。  白凰騎士団の生き残り、団長が土埃を上げた隙に彼の指示で逃げることができた騎士達は、重たい鎧をぶつけ合いながら走り続けていた。  馬はなく走るのみ。  ゴブリン達を追いかけていた騎士達が逆に泥まみれになって追いかけられる側になっていた。転べば最後、狼に切り裂かれて殺される。  隣の騎士が右足を自分の左足にひっかけて転倒する。顔が合うと、人生の全てが終わったかのように顔をしかめている。心の中で『すまない』と思いつつ見捨てる者、手を貸そうと止まる者、人間の感情が全てこの場で展開されていた。 「無駄無駄ぁ!」  転んだ騎士、立ち止まった騎士が一緒になってバラバラになる。狼にとっては1人の騎士など、店の入口にあるのれん程度にしか思っていない。  自分が生き残ったことを喜ぶべきか、勇敢に立ち向かった相手を羨むべきか。騎士達は答えを導き出せない迷いに葛藤しながら草原の中を走り続けていた。 「うわああああああ!」  そこに1人の騎士が急に大声をあげて精一杯の力で目を閉じ、歯を食いしばる。彼は何を思ったのか、その場で立ち止まった。 「俺は残る! 残って時間を稼ぐ!」  小隊長でもなんでもない騎士。『色つき』とはいえ特別な力がある訳でも、二つ名をもつ訳でもない。ただただ、立ち向かわなければならない。そんな感情が彼の足を止めさせた。 「俺も残る!」「………お、俺もだ!」  彼の言葉に次々と騎士達が足を止めて剣を、ランスを構える。  勇気か無謀か、残った十数人の騎士達の顔が罪悪感にさいなまれたものから覚悟を決めた顔に変わる。  その顔を見たアモンの足がゆっくりと速度を落としていく。 「バルバトス、悪いが先に行ってくれ………俺はこいつらとやることにした」 「リョウカイシタ」  無機質な返事を口のない銀色の顔から出したバルバトスは、両足の車輪を回して草原を進んでいった。
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