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第四章
ブレイダスの街影がうっすらと見える。
蜃気楼よりもはっきりと映る姿を遠目に、デルは騎士達の姿を見て回っている。
「ひどいものだな」
命からがら逃げてきた騎士達は鎧の色に限らず、その場に座り込んでいた。蛮族を退治すると意気揚々だった伸びた背筋は過去のものとなり、皆汚れた鎧で背中を曲げている。
本来ならば鎧を磨けと小隊長辺りから声が上がるものだが、それすらもない。
デルは自分の騎士団と重ねながら目を細めると騎士達の横を通りすぎ、大きな天幕の布を開く。
「一体奴等は何なんだ!」
まだやっている。デルは一瞬で眉をひそめた。
白凰騎士団の副長を務めるベルフォールはテーブルを何度も叩きながら感情的に声を荒げていた。
「魔王軍? 77柱? 今までそんな奴等の存在など一言もなかったぞ!」
そんなことはここにいる全員が分かっていると、紅虎と蒼獅の騎士団の団長は腕を組んだままベルフォールの発言に一々答えなかった。
怒りが収まらないベルフォールは中に入ってきたデルに目を向ける。
「デル団長、先遣隊のあんた達は一体何をしていた!」
「………返す言葉もない」
銀龍騎士団を失い、ゲンテの街を戦禍に巻き込み、後方に連絡することもできなかった。胸ぐらを掴まれても、デルは淡々と答えるしかなかった。
「ベルフォール、もうその辺りで止めておけ」
赤い騎士の鎧を着た男が、感情的なベルフォールを見かねて肩を掴む。赤毛が混ざった太い腕が無抵抗のデルからベルフォールを無理矢理剥がした。
「すまないザルーネ卿」デルが首元の服に指を入れて位置を正す。
「いや、デル殿が無事で良かったと思う。お陰で色々な情報を得ることができた」
静かに謝るデルの横に、今度は青い鎧を着た長身長髪の男が近付いて声をかける。背の高い細めの優男という言葉が彼に合うが、それでも『静寂』の二つ名をもつ蒼獅騎士団の団長である。無駄のない体から出る落ち着いた声で、赤虎のザルーネに視線を向けた。
「ヴァルト卿の言う通りだ。あの蛮族共の強さは誰も知らなかった。今はその責任をどうするよりも、これからのことを考えるべきだろう」
戦場になると燃えるように暴れ、しかし使う魔法は水や氷という相反する印象を与えることから『氷炎』の二つ名をもつ紅虎騎士団の団長のザルーネ。彼はベルフォールを掴む手を離すと、筋肉が盛り上がる腕で机を叩き、デルが持ってきた敵の布陣図に周囲の目を向けさせた。
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