第四章

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「それは無理だ」  分かり切った質問をするなと、ヴァルトは溜息をつきながら左右に首を振って言葉を続けた。 「ブレイダスの人口はおよそ2万人。これだけの人口を一度に避難させるだけの余裕は我々にない。大混乱に陥るぞ」  ヴァルトの確実な予想にベルフォールは頷きながら『それに』と付け加える、 「避難させるためには、住民達に蛮族のことを説明する必要がある。デル団長はこのことが住民達に漏れた場合、王国騎士団、ひいては王家に対しての不信感を与えることになることが分からないのですか?」 「どちらにしてもいつかは伝わる! すでにゲンテの街の住民が大勢殺されているんだぞ!」  ベルフォールの物言いに、デルは声を荒げた。 「だとしても住民達に真実として伝わるには時間がかかる」  故に今この場で討つべし。ベルフォールは再度攻勢を主張する。デルは2人の団長の表情を窺うが、彼らもこの状況をすぐに住民達に伝える事にはためらっているようだ。 「まだ我々は負けてはいない。ここで蛮族を打ち倒せば事はそれで済む。ゲンテの街が襲われた以上、王国騎士団としての責任は問われるだろうが、できればそこまでにしておきたい」とザルーネ。  だが住民へは蛮族侵入の可能性があるという形で注意喚起は行っておくと、一応デルの気持ちを汲んだ締め方となった。  ヴァルトも異存はないと、小さく頷く。 「………もし負けるようなことがあれば、蛮族の大群がブレイダスに向かってきますよ?」 「分かっている。だが蛮族相手に、我々はこれ以上負けることは許されない」  空気が変わる前にと、ザルーネは吐き捨てるように言葉を残して天幕を出ていった。それに併せてヴァルトが無言で、ベルフォールはデルに勝ち誇ったかのような顔つきでこの場を去っていく。 「敵の強さは尋常ではない。何故それが分からないのか………」  デルは自分で持ってきた敵の布陣図の上に拳を置き、手を震わせた。騎士団や街を住民達を失ってからでは遅いのだと、自分の心に訴えかけるように口ずさむ。 「団長………」  そこへ銀龍騎士団の騎士が様子を見に来る。彼は外で何度も声をかけたのですがと謝りつつ、伝言を持ってきた。 「………フォースィ殿が団長を呼んでおられます」  その言葉に、デルは思わず振り返った。
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