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「その様子だと、彼らの恐ろしさを理解してもらえなかったようね」
野営の隅で佇む赤いワンピースを着た若い女性。町娘のような姿には似合わない竜の細工が施されている魔導杖を片手にした彼女は、日没後の生暖かい風に当たりながら、近づいてくるデルの表情を読み取って声をかけてきた。
「なぜここにいる? あの集落はどうしたんだ」
「私がいても何も変わらないわよ………私がいるのは、あなたの部下に依頼されたから」
フォースィはデル達が旅立った後、集落に残った銀龍騎士団のフェルラントに依頼されてここに来ていると説明する。
「あなたも物好きね。団長なんだから本隊への報告くらい部下に任せておけばいいのに」
「そういう訳にもいかないだろう………まぁ、結果としてはあまり変わらなかったが」
呆れるフォースィにそう言って自嘲するデルは、本隊と合流して得られた情報をフォースィにも伝えた。
特に魔王軍の目的がシモノフの大関所跡を境にした東部の占領だと説明すると、フォースィは顎に手を当てて自分の知識と照らし合わせる。
「カデリア自治領はかつてカデリア王国の領土。でも二百年前の戦争では、ウィンフォス王国に代わって魔王軍が当時の王都であるブレイダスを占領したらしいのよ」
「つまりなんだ、奴らにとっては自分達が正当な所有者だと言いたいというのか?」
二百年前の主張を今更。デルは馬鹿げた話だと両手を広げる。
「私にだって本当の事は分からないわ。ただ何とかしないと、数日後には王国の領土だけでなく、人口も半分になるわよ?」
魔王軍はシモノフの大関所跡から先は進まないと言っていたが、事はそれだけでは終わらない。カデリア自治領は昔から農業が盛んな地域が多くあり、今では王国の食料庫として欠かせない場所になっている。
それが一瞬にして失われれば、王国が一気に食糧不足に陥ることは明白で、仮に魔王軍が動かなくとも、ウィンフォス王国は滅亡の道を自ら進むことになる。
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