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2人でゆっくりと後ろを振り向くと、茂みからはさらに小さな野豚が姿を現した。角もまだ小指ほどの長さで、今にも泣きそうな目で寂しそうな声を上げる。
タイサとボーマは大きく溜息を吐く。
「ボーマ………驚かすなよ」「いやぁ、すいません………って隊長、俺はどっちの意味で言われたんですかね? やっぱり豚の方ですかね? ああ、その顔はそれっぽいですね」
ボーマがタイサの表情を見ると静かになった。
「隊長、前向いてもらっていいですか?」
「ん? ああ、そうだな。早くあいつらの所に帰らないと………」
タイサが前を振り向くと、柔らかく湿ったものに顔をうずめる。
一瞬にして視界が奪われ、さらに不快な臭いが鼻の奥まで刺激する。
「ぶはぁっ」
一体何かと顔を離すと、タイサの前には大きな穴が2つあった。穴からは空気が何度も出入りし、獣臭い空気を吐き出している。
「………ボーマのお母さんじゃないですか………いやぁ、どうも初めまして」
「隊長、ここでもそれが言えるなんて………俺尊敬しますよ。生きていたらですけど」
人間の大人と同じ長さの角をもった巨大な豚。馬車より大きなそれは、タイサ達にあらゆる怨念を込めて睨みつけ、そして大きな雄叫びを上げた。
「逃げるぞ!」「了解!」
タイサとボーマは野豚を縛った棒を持ったままそれぞれ左右に逃げる。
「「ぎゃぁぁぁぁぁ!」」
だが2人は互いに引っ張り合う結果となり、盛大に後ろに転ぶ。
巨大な野豚は前足で地面を何度か蹴ると、そのまま走り込んで来た。
「ひ、引かれるっ!」「ボーマ、飛べ!」
タイサはボーマの体を蹴り、横へと吹き飛ばす。ボーマは間一髪巨大な野豚が削った地面の横に倒れ込み、九死に一生を得る。タイサもまた蹴った足をすぐさま引いて、難を逃れた。
「隊長、どうしますか!?」
通り過ぎた巨大野豚は奥にあった大木を根元からへし折って勢いを止めると、何事もなかったかのように振り返り、タイサ達に再び目標を定める。
「もちろん逃げる」
タイサの言葉に異論なしとボーマはタイサよりも先に森の中を駈け出していった。
タイサも負けじと捕獲した野豚が縛られた棒を掴むと、それを引きずりながら走り出す。
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