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第一章
タイサは窮地を迎えていた。
「隊長………」
褐色の肌をもつ女性。かつて王国騎士団『盾』の副長を務めていたエコーは、目の前で膝をつくタイサを前にして何かを言おうと口を開ける。
「エコーさん、ここは何も言ってはいけません」
狩人の弓を構えつつ、カエデは10歳も年上である兄のタイサの前に立っていた。
「カエデちゃん、勘弁してくれよぉ」
タイサの隣で、同様に正座をしている太った男が上目使いで反省もなく笑みを浮かべている。短い丸太のような太った足は自重によって血が止まりかけているのか、やや尻を上げて姿勢を誤魔化していた。
「ボーマ、あんたは黙りな」「あ、はい」
エコーはボーマには厳しかった。
カエデはこれにみよがしに大きく溜め息をつくと、足元にある木箱の中の底を2人に見せる。
「今日のご飯がないんだけど?」
タイサとボーマは何も言えなかった。
王都ウィンフィスを追放されて2日目の森の中、王都のギルドで斡旋された依頼を果たし、手に入れた支度金で旅に必要なものを揃えた矢先の出来事だった。
十分に水と食料を積み込んだつもりだったが、その消費量は会計担当のカエデの予想を越えていたらしい。
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