第五章

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第五章

 フォースィは東西南北の大通りが交わる噴水の周辺に置かれたベンチに腰掛け、ブレイダスの住民達の動きを無言で観察していた。  ベンチは噴水の周囲にいくつもあり、普段は多くの老若男女が座っているが、今は紅の神官服を着た彼女以外座っている者はいない。どの住民も無駄に大きな声で叫び、普段よりも足早に人の往来が激しい。  住民達は両手に持てるだけの荷物を抱え、ある者は馬車に詰め込み、ある者は着の身着のままで集団で馬車に乗り込み、またある者は小さな子供の手を繋いで西門へと徒歩のまま向かっていく。  白銀の鎧を纏った『色なし』の騎士達が、声を上げて住民達を誘導している。中には荷物を馬車に乗せる手伝いを行っている騎士もいたが、焼け石に水とはこのことで住民の数に対して、動員されている騎士の絶対数が足りない状態であった。 「………ひどいものね」  ベンチの手すりに肘をかけ、フォースィは頬杖をつきながら必死の形相で街を離れる人間模様を表情をつくることなく見続ける。  数時間前、王国騎士団の本隊がブレイダスの街へと入ってきた。住民達は蛮族達を追い払ったのだと歓呼の礼で迎えようとしたが、騎士達の表情や様子を見て全員が言葉を失った。  ウィンフォス王国が誇る王国騎士団、その中でも『色付き』と呼ばれる一流の騎士達が、無言で東門から入ってきたのだった。  無傷の者は皆無。負傷し、武器や防具を失い、瀕死の者や歩けない者を担ぎ、運ぶ騎士達。その姿を見た住民達は、そこでようやく街の外で起きたことを悟ったのである。  王国騎士団が蛮族達に敗北したのだと。  白凰騎士団の団長であり騎士総長のシーダインは行方不明、団長代理のベルフォールは瀕死。紅虎騎士団のザルーネ団長は重傷。現在、王国騎士団は蒼獅騎士団のヴァルト団長によって全軍を統率し、その補助に銀龍騎士団のデルが指揮を執っている。  住民の代表に事情を説明したのは2時間前。ヴァルトとデルは、王国騎士団の権限で住民の避難、義勇兵の募集、冒険者ギルドへの優先的協力依頼を命令した。
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